消え失せるのは
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僕は3人兄妹の次男坊である。
兄が大学生になるまでは一つ家で暮らしていて、
そうすると長い間には、誰のものだか判然としない本というのが発生する。
時代別によって読まれた絵本などはもちろんであるが、
性別や年齢、趣味嗜好を問わない本もそれに属する。
ケストナーというのは、希有な作家である。
子供の頃に読めば児童書であり、
大人になって読んでも、大人のための絵本とも、エンターテイメント小説とも読める。
家にあったハードカバーには、「飛ぶ教室」と「点子ちゃんとアントン」が併録されていて、
大学生になった僕が大真面目に読んでいたものである。
兄妹の誰が買ったものかわからないが、なぜか家にある本の好例であると思う。
- 作者: エーリヒ・ケストナー,小松太郎
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1970/02/13
- メディア: 文庫
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「消え失せた密画」は、ケストナーが書いたミステリーであって、
ミステリーが書けるのかと驚いたのだが、
よく考えたら「エーミールと探偵たち」(未読)もあったのだった。
そこで、初めてケストナーを自分で買った。
この作家は、人の子供心をくすぐるのがうまい。
子供が妙な大人をあやしむ心の延長に、この作家のミステリーは存在している。
有能なリーダーが率いる悪党一味、謎めいた青年、追われる美少女。
まぎれもないケストナーの世界が、期待したほど楽しめなかったのは、
書かれた時代のせいか(あとがきには、そういう記述もある)、
アクションがサービス過剰に思えたせいか、
作品への僕の過度の期待か。
「点子ちゃんとアントン」も読み返したくなったが、
それぞれ独立してしまった兄妹たちの、誰が今所有しているかわからない。
そもそも誰が所有者であったのか判然としない、
というのもまた本というものの属性ではある。